ページのトップ
トップページ > 活用事例 > 水泳競技 > 水泳競技における科学的トレーニングの重要性

水泳競技における科学的トレーニングの重要性

近年の競泳の世界記録をみてみると、1950年以降1980年のモスクワオリンピックごろを境に記録の更新が緩やかになっている。これは1980年ごろを境に泳法やトレーニング方法だけでは記録を伸ばすのが困難になり、科学的トレーニングの導入や寄与がより重要になってきていることを示している。


 実際、日本のオリンピックの競泳競技の変遷を見てみると、図のようにバルセロナオリンピック以降は決勝進出者が二桁になりアテネオリンピックでは8つのメダルを獲得することができた。これは、日本の指導者(コーチ)の指導力が年々向上していることや、積極的な科学トレーニングを導入、実践していることが大きく寄与しているといえる。


 競泳種目においては50mから1500mまでの距離種目があり、運動持続時間にともない有酸素性および無酸素性エネルギー産生量が占める割合が図のように変化する(荻田2005)。無酸素運動とも考えられがちな100mや200m種目においても、実は半分以上が有酸素性エネルギーによってまかなわれており、これらの選手においては無酸素性エネルギー生産能力(主として乳酸生産能力)と同時に最大酸素摂取量を求めるようなトレーニングも重要である。また長距離種目(400m以上)を専門とする選手においては有酸素性エネルギー供給系の向上に重きを置くことが重要となる。


 水泳のトレーニングの評価には生理学的指標として「酸素摂取量」「心拍数」「血中乳酸濃度」が用いられる。  「酸素摂取量」を用いたスイミングエコノミーテストは大掛かりな実験になる。
 「心拍数」は最も簡便に安価に評価できる指標である。しかしながら、変動幅が大きく測定条件を一定に保つのは難しい。またトレーニングの強度と心拍数は必ずしも一致しない場合もあるので注意が必要である。
 「血中乳酸濃度」は簡易測定器によって測定することができる。手のひらサイズの測定器で、60秒で乳酸の血中濃度を測定し、水泳のパフォーマンスの指標とすることができる。

 血中の乳酸濃度は下記の式で決定される。

血中乳酸濃度 = 乳酸産生量 − 乳酸除去量

 乳酸は主に、解糖系酵素活性の高い速筋繊維から産生され、運動中には遅筋繊維にて酸化的に利用され除去される。つまりパフォーマンスを高めるためには、多くの乳酸を産生できる能力と、その乳酸をエネルギーとして使える能力が必要なのである。